アブドゥルラザク・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える6

【データベースの作成】 
 
表1 「出発の記憶」のデータベースのカラム 

項目名  内容   説明 
文法1  態     能動、受動、使役。 
文法2  時制、相   現在、過去、未来、進行形、完了形。 
文法3  様相  可能、推量、義務、必然。 
意味1   五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2   喜怒哀楽   情動との接点。瞬時の思い。  
意味3   思考の流れ  抵抗ありなし 。
意味4  振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。  
医学情報  メンタルヘルス 受容と共生の接点。購読脳「ポストコロニアルとフラストレーション」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
情報の認知1  感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。 
情報の 認知2  記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。 
情報の認知3 計画、問題解決、推論  受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。 
人工知能 向上心と脱出 エキスパートシステム  向上心は、上に向かって進もうとする気持ちのこと。脱出とは、抜け出すこと。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥルラザク・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える5

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥルラザク・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える4

 サルマと映画を見て夜の8時か9時頃帰宅した。ブワナ・アーメドは、サルマのことを平手打ちした。(P.153)フラストレーション。心配もある。しかし、私のことをナメクジのように見る。最後には苛立ちが落ち着く。(P.154)出て行けという。荷物をトランクにしまう。サルマを叩く必要はない。(P.155)フラストレーション。
 夜になって鉄道の駅へ向かう。そこには列車を待つ人たちが群がっている。海岸へ向かう列車は夕方に出る。それまで仮眠する。(P.158)朝になって帰郷することを告げるため大学にマリアムを訪ねる。マリアムに事情を説明し再び駅に行く。列車が走り出すまでプラットフォームで見送りしてくれた。(P.161)エピソード記憶。
 エピソード記憶と短期記憶は、個人の意識が存在するレベルの記憶であり、意味記憶やプライミング記憶及び手続き記憶は、個人の意識が介在しない潜在記憶である。但し、エピソード記憶と意味記憶は、経験と時間によってどちらにも変わる可能性がある。
 ビ・ムブワを車に運ぶ。死の臭いがする。病棟には死を待つ長い列がある。ベッドを片付けて祖母を寝かせる。(P.175)リューマチである。リューマチは、アレルギーによっておこる関節や筋肉の疼痛性疾患である。レントゲン検査の手配もされず、翌日死亡した。棺はタクシーで家に運ばれた。二人いる姉妹の姉、サキアが手伝いに来た。早熟で下女を放棄し、12歳で学校での修業を終える。葬式後に共同墓地に埋葬される。(P.176)個人の意識が存在するエピソード記憶である。
 先生になるために、教育大学に行きたい。次の学期からスタートできる。(P.178)向上心と考えたい。未来も含めた個人の経験にまつわる出来事と関連するエピソード記憶と捉えたい。個人の意識が存在しているためである。
 「出発の記憶」は、個人の意識が存在するエピソード記憶が中心にあり、その背後に潜在意識のプライミング記憶や意味記憶が来る。そこで購読脳は「ポストコロニアルとフラストレーション」、執筆脳は「向上心と脱出」にする。シナジーのメタファーは、「グルナと向上心」である。 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥルラザク・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える3

 ナイロビの鉄道の駅は大きい。ブワナ・アーメド・ビン・カリファが昼食のために帰宅する。(P.102)昼食後、オマルは、皆が町へ行ったとき部屋に残り、実家にいたら何をしているか考え、両親のことや出発時の興奮した様子を思い出した。(P.106)個人の意識が存在するエピソード記憶である。
 記憶については動的な記憶の分析を考える。(花村2023)例えば、長期記憶は、頭で覚える陳述記憶と体で覚える非陳述記憶に分けられ、陳述記憶は、エピソード記憶と意味記憶に分けられる。エピソード記憶は、未来も含めた個人の経験にまつわる出来事と関連し、意味記憶は、一般的な知識と関連する。また、非陳述記憶のうち手続き記憶は、自転車の運転とかタイピングと関連する。 
 長期記憶の分類にプライミング記憶を加えることがある。プライミング記憶は、先行情報が後から与えられた情報に影響を及ぼす効果を持っている。しかし、無意識によりパターン化されるため、勘違いの原因になることもある。
 給仕係のアリは、30代の痩せた男。叔父の娘のサルマと食事やコーヒーのサービスをしてくれる。サルマは、高校を卒業し本屋で働いている。来年にはナイロビ大学に進学する予定である。(P.122)
 差別を感じるかどうか。(P.123)街ではアイスクリームが食べられる。サルマは、マリアムのためにスカーフを買う。ボフロと聞いて急に故郷の記憶が蘇る。エピソード記憶である。マリアムは、芸術史で博士論文を書いている友人。モーゼスの名は誰も知らない。(P.133)確かに海岸から来たものは金がある。しかし、ハッサンが勘違いしている。プライミング記憶。個人の意識が介在しない潜在記憶である。  
 アリが腕にけがしている。肘の骨が見えている。(P.136)フラストレーション。叔父は、中古車ビジネス、冷蔵庫店、肉屋の経営者である。(P.139)ビジネス仲間にモーゼスがいた。私とは久しぶりの感がある。彼は、大学関係ではなく一般のビジネスまたは裏取引に関わっている。(P.143)小さい子供は気が狂ってアラブ人に売られる。(P.151)ポストコロニアル。 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥルラザク・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー

 「出発の記憶」(1987)の主人公ハッサン・オマルは、貧窮で苦しめられても勉強するという希望を捨てず裕福な叔父アーメドを頼りにタンザニアからナイロビへ出発する。ナイロビでは過去と未来が衝突し、恐怖やフラストレーション、優美と残虐が交じり合う。
 グルナ自身1948年にタンザニアのザンジバルで生まれた。裕福な家庭に育つも反政府クーデターにより亡命を余儀なくされ、英国に渡ることを決意する。海外の大学で学ぶための奨学金は出ない。挫折と絶望のため心が折れそうになるが、将来への希望は捨てきれない。グルナの作品は、東アフリカを舞台にした植民地主義の影響と難民が負う心の傷が描かれている。
 ポストコロニアルをここでは文明化と考える。小説の中では、海辺の町出身者は、洗練された教養のある人たちである。(P.117)ナイロビにいる叔父アーメドは、父が死んだときに店や仕事を売りすべてを管理している。そこで、私が金を必要とするならば、自分のところに来るようにと伝えた。(P.52)パスポートの申請のために出入国管理局に行った。(P.66)発行には3週間必要だった。フラストレーション。母がナイロビについて話してくれる。道にはスリや盗賊がいる。寒い日の衣類、叔父アーメドに会う方法など。(P.70)
 列車は、二等車両。駅まで父が見送りにくる。何もなしでは帰ってくるな。学位に拘れと父が激励する。ナイロビまでの旅が始まる。客室にはモーゼス・ムイニという青年がいた。(P.78)ナイロビでアフリカの芸術、文学、文化、歴史を学んでいる。(P.85)しかし、物を盗むのも悪気がなく無意識のまま行われる。個人の意識が介在しない潜在記憶である。列車は、数時間でナイロビに到着する。(P.88)ナイロビに着いたらタクシーで叔父のところへ行く。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥルラザク・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”(ブルジョア世界の終わりに)執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと文理共生からなるクラウドからの社会学とを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。
 この種の分析は、作者の執筆脳を予測するためのものである。ここでの分析が大きな人工知能の入力となり、AIの出力が作家の執筆脳と認識されれば、シナジーのメタファーが将来的にはサイエンスと呼ばれるようになっていく。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について8

4 まとめ

 壺井栄の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「二十四の瞳」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-自然や文化の観察者としての作家について ブログ「シナジーのメタファー」 2020 
壺井栄 二十四の瞳 岩波文庫 2018
Wikipedia 三・一五事件、四・一六事件、満州事変、上海事変

日本語教育のためのプログラム

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について7

表3 情報の認知

同上
A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
B:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。    

結果  壺井栄は、この場面で喜びや悲しみの中で過ごした激動の昭和の歴史を確認し、瀬戸内に生きる庶民の知恵も描いているため、購読脳の「感情の共有と戦争の悲惨さ」から「ユーモアと母性愛」という執筆脳の組を引き出すことができる。 

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

日本語教育のためのプログラム

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について6

【連想分析2】
情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。

情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

日本語教育のためのプログラム